金利について自分の復讐を兼ねてまとめてみる。
世の中には金利と1口に言っても色々な金利がある。銀行の定期預金の金利、債券のクーポンレート、住宅ローン金利などなど。また、中央銀行が発表する政策金利ことを端的に(短期)金利などと言う。
色々と存在する金利の中で、今回はトレードをする上で重要かつ金融マーケットで基本的な金利である「名目金利」と「実質金利」について、自分の勉強も兼ねて記事を書いた。
Fisher方程式
米国の経済学者Fisherが考案した関係式をはじめに紹介する:
具体的な例を引き合いに説明したいので、 名目金利:米国10年債利回り 実質金利:米国10年物価連動債の利回り と考えることにする。一般にリスクプレミアムについては測定が容易ではないことから、期待インフレ率にリスクプレミアムは織り込まれていると考え、上式を近似式に書き直すと次のようになる:
期待インフレ率
期待インフレ率は、名目金利と実質金利の差として定義される。一般に期待インフレ率は、直接、計測することが出来ない。期待インフレ率は、インフレ予想とも呼ばれ、例えば、「10年期待インフレ率が3%」は、現在の市場参加者が今後10年間の平均インフレ率は3%だと予想しているということである。
名目金利
通常、名目金利は広い意味で、世間一般に目にする金利のことを指す。銀行の定期預金の金利、債券を起債する時に示される債券利回り等、不動産の利回りなどなど。せっかくなので、市場で話題になる米国10年債利回りの考え方、導出についてまとめてみた。
米国債利回りの考え方
例えば、額面価格100、起債から償還までN年、1年に1回のクーポン利息がD、リスクフリーレートrの債券を考えると、その現在価値PVは
となる。ここで注意点が1つ。普段、ニュース等で言及される「米国10年債利回りが〜」というのはクーポンの利率D/100のことではなく
のことを指す。償還差益は、償還額と債券購入時点での価格の差である。上式左辺を変動させる要因はなんだろう?クーポン額Dは、起債時点で予め決まっているため定数である。償還差益は、「償還額と債券購入時点での価格の差」であり、償還額もDと同様、起債時に決まっているので定数である。今、述べた定数を全てC、債券価格をPVとすると債券利回りの式は
となる。この時、変数はPVのみ。つまり、債券の現在価値(=PV)が変動することで債券利回りが変化することがわかる。
例えば、インフレ時は一般に債券は売られる。なぜなら、債券は起債から償還まで受け取る金額の合計が一定のためである。クーポンを受け取る期間に世の中の物価が上昇しても受け取るクーポンは変わらない。現金の価値が、モノの価値に対して相対的に下落していくインフレの時期では、債券の利息収入だけでは投資パフォーマンスはインフレに負けしてしまう。つまり、インフレを予測した債券投資家が取るべき選択は債券を売って株式やコモディティーなど一般的にインフレに対して耐性のある資産を買うことである。上のPVの式では、rはN年間一定であるかのように書いたが正確には、各年のrは同じ値ではなく、年度ごとに変化する。それを考慮してPVの式をあらためて書き直すと
という式が正しい。現実の金融政策を思い浮かべると、インフレ亢進期では中央銀行は政策金利rを引き上げる。(いわゆる利上げ)もう自明だと思うが、インフレを予測した投資家は将来自点のr_kが大きくなると思っているので、PVが小さくなるだろうと考えるのである。以上、整理すると
- PV↓(↑)のとき、債券利回り(%)↑(↓)
であることがわかる。主にインフレの場合を想定して説明したがモノに対してキャッシュの価値が増価するデフレの時期も上の議論と逆の説明になる。次に具体的な数値を使って計算してみる。
計算例
残存期間10年、額面金額100円、利率1.5%の国債があり、半年ごとに0.75円ずつ(年1.5円)の利息が支払われるとする(計算を簡単にするため非課税と仮定する)。この国債の価格が、額面金額と同じ100円だった場合、年当たりの「利回り」は、利率と同じ1.5%となる。ところが、もしこの国債の価格が90円だった場合、100円-90円=10円が償還差益となる。したがって、年当たりの差損益は10円÷10年=1円となる。この1円を利息の1.5円と合算した収益は2.5円。この2.5円を債券価格90円で割ると、この国債の利回り(2.77%)が出る。
引用: www.oanda.jp
これまでの議論の考え方に沿って、国債価格が90円だった場合の国債利回りを計算してみる。
だった。残クーポンの総和は、残存期間10年で額面金額100円に対して利率1.5%だから、
よって15円。償還差益は、100-90=10円。債券価格は90円。なので債券利回りをRとおくと
となる。つまり、この債券の10年間の利回りは27.8%だ。しかし、これを1年あたりの利回りに直すとどうなるか?10年間で合計27.8%の利益になるのだから単純に10で割って2.78%の年間利回りとなる。ここで注意したいのが、この時の毎年の利益は再投資される訳ではない。再投資を許す商品のリターンを計算する時なんかは、幾何平均の考え方を使う必要があるので注意。
実質金利
実質金利とは、名目金利から将来のインフレ率を引いた金利のことである。序盤に示したFisher方程式
を見ると実質金利は名目金利と期待インフレ率の差であることが分かる。実質金利は物価連動国債の利回りとして算出される。例えば、名目金利が5%、実質金利が3%だとすると、期待インフレ率は2%である。これは、市場が予想する今後、最大10年間の平均インフレ率[%/年]が2[%/年]であることを示唆している。実質金利は、普段の生活ではなかなか目にしないので、実質金利を具体的に理解するため実質金利がプラス、マイナス、0の場合に分けて具体的に説明してみる。以下では、銀行の定期預金の金利(=リスクフリーレート、名目金利)は2%であるとする。
- 実質金利>0の場合
期待インフレ率0%の場合
となる。今、期待インフレ率が0%なので現在、1000万円で販売されてる財Aは1年後も1000万円のままである。一方、銀行に1年間1000万円を預けると1年後には1020万円となり、1年後に財Aを購入しても手元には20万円が残っている。よって、実質金利>0の時は、消費者は一般に消費よりも預金を選択するだろう。
- 実質金利=0の場合
期待インフレ率2%の場合、実質金利は0%である。この場合は、銀行に1000万円を1年間預けて利息20万円を受け取っても、財Aの価格も同時に20万円値上がりしている。よって、消費者にとっては消費と預金の効用の高さは等しいだろう。
- 実質金利<0の場合
期待インフレ率が3%の場合、財Aの価格は1年後は1000万円から1030万円になる。一方、銀行に預けた1000万円は1年後は1020万円である。1年間、1000万円を銀行に預けると消費者は財Aを購入することが出来ない(10万円、不足の状態)。つまり、この場合、消費者は預金よりも消費を選択する。
実質金利の値によって、景気がこれからどうなるのかは簡単に想像できるだろう。ここで2020年の1月から2022年9月現在までの各金利の推移を見てみよう。
画像のオレンジ色の線が実質金利の値動きである。見ての通り、コロナ禍のFedの金融緩和政策によって、期待インフレ率が上昇。それにより、実質金利は強烈に押し下げられた。(もしくは、物価連動国債が買われその金利である実質金利が下がった。)この間、人々の消費意欲は強烈に高まり現在のインフレを招いている。(ロシアのウクライナ侵攻やカーボンニュートラル政策なども多少、関係していると思うが)
実際の数値
参考までに、FRBが公開しているデータをpythonのpandas拡張ライブラリであるpandas_datareader.dataを使ってスクレイピングしてみた。
1列目からUS10年債利回り(名目利回り)、US10年物価連動債利回り(実質利回り)、US10年期待インフレ率である。1列目は2列目と3列目の和になっていることが確認できる。今はCPI前年比8%と高インフレに喘いでいるアメリカだが、10年期待インフレ率はかなり下がっており実質金利は僅にプラスとなっている。これはもちろんFedのインフレ対策、金融引き締めの効果だろう。(pythonコードも後ほど載せる予定。)
結論
実質金利は消費者の行動を考える上で欠かせないファクターである。企業価値はそうした人々の行動の裏付けであり、株価とは切っても切り離せない。これからも金利についての記事は自分の勉強のためにも時々、アップデートしたい。